Special

「多様性」とは「違い」を理解すること

ジョークが理解できたとき 上達を実感しました

――7歳のときにカナダへ移住し、言葉で大変苦労したと聞きました。
英語がまったく話せない状態で行ったので、最初は友人がつくれませんでした。現地の学校に通っていたので、授業もなかなかついていけなかったですね。話せるようになったかな、と思えたのは移住して2年後です。毎日することがなくて、意味も分からず『スパイダーマン』や『ザ・シンプソンズ』のアニメをずっと見ていたら、自然とリスニングが身について、それからスピーキングもだんだんできるようになりました。
──家での会話は日本語でしたか?それとも英語?
弟は3歳で移住したので完全に英語で、1歳上の姉は英語が苦手だったからずっと日本語でした。両親も英語はそんなに話せなかったので、日本語でしたね。さすがに今は弟とも日本語で会話しますけど、当時は弟とは英語、両親と姉とは日本語で話していました。
──子どものうちは音を聞く能力が優れているので、読み書きよりも耳で聞いて理解する方が早いですよね。
はじめはなんとなくの雰囲気で覚えました。公園で遊んでいて、場所を譲ってほしいときに「Excuse me.」と言っていたんですが、周りの子たちからヘンな顔をされて。今思えば、礼儀正しすぎるし、そんなこと言う子どもはいないから当然ですよね。そこで「この言い方だと違うんだ」と思って、周りを観察したら「Move.」と言っていて。そこで、こういうときは「Move.」なんだなと自然に学んでいった気がします。
──そういうときの「move」は「ちょっとどいて」くらいの意味になりますものね。そういえば、お友だちをつくるために、スケボーも始めたと聞きました。
当時、クラスのイケてる子たちの間でスケボーが流行っていたんです。自分もうまくなれば、英語が話せなくても仲間になれるんじゃないかと、すごく練習した記憶があります。
──そうやってコミュニケーションを取るうちに、英語が上達していると実感する瞬間はありましたか?
たとえば、向こうの笑いって、ボケとツッコミではないんです。まわりくどいし、少しブラックなジョークが日常会話に頻繁にあって、理解できないこともあったんです。でも、それを理解して笑えたときは、英語が上達してるなと思えました。あとはやっぱり、「R」と「L」の発音ですね。あれを使い分けられるかどうかで、差が出てくると思います。自分はカナダに行く前に、「R」と「L」の発音の口元を映した教材ビデオを親に見させられて、練習していました。

海外暮らしが長いと敬語が苦手になって…

──アカデミックな英語教育を受ける機会はありましたか?
読み書きのために両親が家庭教師を雇ってくれたんですが、スピーキングを先に覚えてしまったので、いまだに日本の英語教育における文法はよく分かっていないところも多いです。ただ、高校入学の試験がエッセイ式だったので、そのときはすごく役に立ちました。
──頭の中で文章を作るときは、英語、日本語どちらでしたか?
英語です。逆に日本語が苦手で、特に敬語が難しくて苦労しました。というのも、高校は寮生活ができるニューヨークの学校に行ったんですけど、生徒が日本からの留学生ばかりだったので、日本人社会だったんです。敬語を使わないと先輩に怒られるとか、ニューヨークなのに帰国子女扱いされてしまって。帰国子女あるあるですけど、外国ではアジア人扱い、こっち(日本)では外国人扱い。どっちつかずのしんどさはありました。
──7歳から高校卒業まで、約11年間を海外で過ごしたのち、慶應義塾大学理工学部に進むため日本に戻られました。進路にも語学力が影響していたんですね。
英語の生活をしすぎたってことですね(笑)。日本人がたくさんいる高校でしたが、海外生活が長い友人とは英語で話していたので、日本語をあまり使っていなかったんです。
── 一方で、日本の大学では英語ができることのメリットもありますよね。
メリットになることもあれば、逆もまたしかりで。ただ、日本語と英語の両方の文献が読めましたし、英語の授業に関しては楽だったと思います。
──現在のお仕事でも、英語を使う機会は多いですか?
いくつか海外作品をやらせていただきました。ただ、オーディションだと「英語を下手にしゃべってくれ」と言われることがあるんです。向こうは日本人の役を探しているから、欲しいのは英語をペラペラに話せるアジア人じゃないんですよね。そういうときは、意識してカタカナ英語にしたりするんですが、なかなか難しいですね。
──英語力を生かして日英共同制作の舞台『家康と按針』(2012年)では、宣教師ドメニコの役を演じましたね。
イギリス人のキャストと日本人のキャストがいるお芝居で、自分が演じたドメニコは通訳をする役まわりだったので、1人だけ日本語と英語の両方のセリフがあったんです。自分はアメリカ英語なので、イギリス英語を習得するためにイギリスで2週間ほど勉強しました。脚本はイギリス人が書いているんですが、直訳したときに、日本ではジョークとして伝わらずウケないみたいなことがあって。「ここはたぶん意味合いが違います」とか「セリフ変えましょう」と演出家と直接話せたことは、よかったなと思います。
──古川さんは中国でも活躍されていますが、日本以外の東アジアの国の英語力についてどう感じますか?
中国がすごいですね。みんな日本語が話せますし、日本語ができない人も英語はペラペラなので、会話の面ではまったく苦労しなかったです。ネイティブレベルで英語を話せる人が多い印象です。

国による「良いところ」と「そうでないところ」。
その違いを理解していくことが多様性です

海外の感覚を知ることはきっと成長につながる

──国によってファンの方たちの反応に違いはありますか?
中国は熱狂的だし、ストレートですね。たとえば、スタッフさんが「写真を撮らないでください」と注意しても、「なんで?」って言われるんです。「私が撮りたいのに、なんで撮っちゃダメなの?」って。その感覚は欧米に近いと思います。ステージに立つときも同じで、日本人のお客さんは「周りに迷惑にならないように静かにしなきゃ」って考えますけど、海外のお客さんは面白ければ周りを気にせず大笑いするんです。出演者としてはリアクションがあった方が、やっぱり気持ちが乗ってきますね。
──そういった感覚というのは、古川さんにもあるのでしょうか?
自分は「日本人にはなれない」と思っていますが、昔に比べれば「日本寄り」になっていると思います。たとえば、以前はB-BOY系のダボダボのファッションをしていましたが、日本で着ていたら「個性的」ではなく「変な人」とか「トガった人」みたいな扱いをされることもあります。それって、たぶん日本が周りに合わせる教育をしているからだと思うんです。「なんかおかしいなぁ…」と思いつつも、自分も細身の服を買うようになりました(笑)。
──主演映画の『劇場版ねこ物件』(2022年)も公開され、俳優としてお仕事も順調ですね。今後の野望を教えていただけますか?
以前に比べると、HuluやNetflixなどの配信プラットフォームが増え、日本、海外問わずいろいろな作品に出やすい環境下になってきていると思うので、機会があれば海外作品に挑戦していきたいです。
──日本のドラマも海外で配信されますからね。
自分も出演したNetflixの『僕だけがいない街』(2017年)というドラマは、190カ国で配信されました。カリフォルニアでルームサービスを頼んだときに、スタッフの人が自分のことを知っていて、「Netflixで見た」って言うんですよ。自分のInstagramのフォロワー数も第3位がメキシコの人たちですし、影響力がすごいなと思います。メキシコに行ったことないんですけどね(笑)。
──日本にいながらにして世界が近くなっている感覚はありますね。海外作品に参加したいという思いもありますか?
日本での生活がだいぶ長くなってしまったので、海外の文化に触れて、国際的な感覚を再認識したいです。個人的な印象ですが、考え方が日本だけにとどまってしまうのは良くなくて、海外の考え方やコミュニケーションの取り方を知れば、人としてもっと成長していけると思うんです。テレビやネットでは「多様性」が叫ばれるようになりましたが、日本は周りに合わせる国民性なので、その点ではまだまだ足りていないのかなと思います。
──日本人の意識が変わってほしいと思いますか?
全部を変えるのではなく「少し」変わればな、と思います。時間や約束にきっちりしているところとか、日本人には日本人の良さがありますから。海外の撮影って本当に時間を守らないんです(笑)。日本人の感覚だと「なんで時間通りに進まないんだ!」ってあたふたしちゃうけど、向こうは「まあまあ落ち着けよ」みたいな。だから、海外で仕事をするときに、なにかうまくいかないことがあったら、向こうの感覚に合わせるようにしています。こっちではこれが普通なんだからまあいいやって。どの国にも良いところとそうでないところがあって、その違いを理解することが、多様性なんじゃないかなと思います。
──最後に古川さんのように英語を流暢に話したくて勉強をしているECCの生徒のみなさんに、エールをお願いします。
今日は感覚的な部分のお話もさせていただきましたけど、海外の感覚を少し持つだけで、視野が広がってまた違った考え方ができるようになると思います。勉強ももちろんですが、ECCには外国人の先生もたくさんいらっしゃると思うので、ネイティブの方たちの感覚に接する時間を増やしていくといいと思います。頑張ってください!
──ありがとうございました!

古川雄輝

1987年生まれ。7歳のときにカナダに移住し、その後、単身ニューヨークの高校へ。慶應義塾大学理工学部在学中、『キャンパスターH★50withメンズノンノ』で審査員特別賞を受賞し芸能界デビュー。英語力を生かし、日韓合作映画『風の色』(2017年)など海外の作品にも出演している。最新作は映画『劇場版ねこ物件』。

Interviewer
長渡誠喜子

ECC外語学院教務トレーナーとして、子ども、大人英会話コースを担当。バイリンガル講師育成に携わる。

ECCからのお知らせ